「兄ちゃん、お父さんは?」



僕がそう言うと兄ちゃんの肩がビクッと上がった。



「大丈夫、もう少し、もう少しだから」



その時遠くからサイレンの音が聞こえてきた。



「あっ!救急車来た!」



僕は兄ちゃんの手を振りほどいて玄関の方まで走った。



「隼人!!待てっ!!!」



そんな兄ちゃんの声なんか聞こえなかった。

早くお母さんを救急車で運んでもらわないと。

そう思って玄関に行くと…



「…」



そこにはお父さんが倒れていた。

近くにはこの前お父さんと一緒に工作をしたときの金づちが落ちていた。

お父さんの頭からもいっぱい血が出ていた。



「見るなっ!!」



兄ちゃんにグイッと引っ張られ抱きしめられる。

小1の僕でもなんとなくわかってきた。

そして思った。お父さんもお母さんも助からないって。



「…っ、俺がいるから」



兄ちゃんはそう言って僕をさらにギュッと抱きしめる。



「お前には兄ちゃんがいるから、何も心配するな」



そう言って話す兄ちゃんの声は震えている。泣いている。

僕もギュッと兄ちゃんを抱きしめた。

僕の目からも大粒の涙が何回も何回も落ちた。