「いいか、兄ちゃんが戻ってくるまで絶対ここから出るなよ」



そう言って兄ちゃんが押し入れから出て行こうとする。



「まって!僕も行く」



そう言うと兄ちゃんはゆっくり首を振った。



「お前は出ない方がいい」



そう言い残して兄ちゃんが押し入れから出てそっと扉を閉めた。

少し、じっとしていたけどやっぱり気になる。

しかも暗い押し入れの中一人じゃ怖い。

僕はそっと押し入れを開けた。

外に出ると雨音がさっきより激しく聞こえた。

ゆっくりと台所の方へ歩いていく。



「兄ちゃん」



兄ちゃんどこ行ったんだろ。

そして台所に着いたとき…見てしまった。



「…お、かあ…さん?」



台所の流し台の下。

お母さんがうつ伏せに倒れている。



「お母さん!!」



僕はそう言ってお母さんに駆け寄る。

でも…近寄れなかった。

傍には血の付いた包丁。

お母さんの周りには血の海が広がっていた。



「お、かあ…」



僕はそのまま腰が抜けたように座り込んだ。

その時、



「隼人!!」



そう言って駆け寄ってきたのは兄ちゃんだった。



「兄ちゃん」



「押し入れから出るなって言っただろ!!」



お兄ちゃんがすごい剣幕で怒っている。

でも顔は涙でぐちゃぐちゃだった。



「に、いちゃん。お母さんが…」



そう言うと兄ちゃんは僕をギュッと抱きしめた。



「今、呼んだから。救急車と警察、呼んだから」



涙を流しながらそう言った。

なんで泣いてるの?救急車来ればお母さん大丈夫だよね?

それより…