先輩行きつけの居酒屋で、つまみを突きながら待つことにした。ここは、串焼きが旨いんだ。炭をおこして焼いた煙りが充満して、お腹がぐぅとなった。

先輩が来たら、注文しよう。勢いで聞くことになったけど、どう切り出すのか迷っていた。

「おう、早いな」

声に振り向くと、機嫌のいい森田先輩が笑っていた。
「早く喰わせてくださいよ、腹ぺこにこれはキツイですよ」

「注文すれば良かったのに」

嬉しそうに、おしぼりで顔や首をぬぐう。おっさんくさい仕草なのに、ちっともそう見えないのは、機嫌がよくて若く見えるからかもしれない。疲れた森田先輩は、老けて見える。

思いがけなく、機嫌がいいので聞きやすいのか悪いのか困ってしまう。

彼女の妊娠が嬉しい?
できちゃった婚が嬉しいとか?

…あまり例のない、自分の友達だって、彼女が妊娠したら大騒ぎだった。いずれ結婚するつもりだったとしても、結婚の申し込みだとか挙式だとか煩わしいことが沢山ある。

どうするんだろ、森田先輩…。



店員を捕まえて、メニューを指して注文している先輩からは、そんな悩みなんてカケラも見つからない。

「まずは、お疲れさん」

「お疲れさまです」

生ビールのジョッキを軽くぶつける。

「橋田さ、なに悩んでんの」

じっと森田先輩が僕を見ていた。


「どうして…」

「橋田が飲みに誘うなんて、珍しいからさ。今も考えこんでたろ。俺で良かったら相談に乗るよ」