「ここなら誰もいねーだろ!」


そう千鶴は言って歩みを止めた。


(…校舎裏?)


「ここ人少ないからお気に入りなんだよなー」


確かにここには人がいなかった。校舎裏といえばいかにも「不良の溜まり場!」って感じなのに。


「ここはさ、あいつらの縄張りなんだわ」


あいつら?


私が首を傾けると


「『銀狼』だよ。ぎんろー。」


『銀狼』。確か全国No. 1のとこだったかな。
彼らもこの学校の生徒なんだ…。


かといって何で千鶴が…。


「なんかそいつらに気に入られちゃってな。縄張り入っても良いってなってんだ」


千鶴はそう言ってイタズラっ子のように笑う。


私が納得した顔をすると。


グー


千鶴のお腹が鳴った。


「腹減ったー!メシ食おうぜ!!」


照れてるのか、いつもより大きめに話す。


私もちょうどお腹が空いていたのでコクリと頷く。


そうして2人でお弁当を食べ始めた。


食べながらメモ帳を伝って千鶴に尋ねる。


『何で男装?』


それを見た千鶴は「あぁそうか。話すの忘れてた」というと男装をしている理由を教えてくれた。


「ここの連中って喧嘩っ早いからさ、しょっちゅう喧嘩吹っかけられるんだよ。で、相手をすれば私の強さだいたいわかっちゃうじゃん?」


確かに千鶴は強いから、タダ者じゃないと認識されてしまうだろう。


「黒蝶の総長だっていつバレてもおかしくないだろ?私、隠し事苦手だしさ」


千鶴はすぐに顔に出すからわかりやすいため、隠し事は不可能に近い。


「バレた時に、総長が女だって知れたら黒蝶がなめられちまうんじゃないかって思って…」


総長なんてやっているが実際のところ、千鶴は急に弱気になったりする事がある。でもその分、仲間の事を精一杯に考える事のできる子なのだ。


「私、背もでかいし、可愛い系の顔じゃないし、元々口が悪いからさ。私を俺に変えるだけで普通に男やれてんだわ…」


少し気恥ずかしそうに千鶴は笑った。そんな千鶴が可愛くて思わず頭をポンポンする。


「わっ!なんだよー…やめろょ…///」


そう言いつつも払いのけたりはしない。それどころか顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


クスッ…


思わず笑ってしまう


「うわーレア顔!!もうほんと…。やめろよ恥ずかしいから!」


さらに真っ赤になる。私が感情を見せるのは本当に親しい相手にだけ。「レア顔」なんて言われてしまった。


「そろそろ教室戻ろーぜ!」


赤みの引いてきた顔でもうこの話題から抜けたいと言ったように立ち上がる。


もうお昼休みも終わる時間だし、千鶴の言う通りそろそろ戻ろう。


そうして千鶴とは途中で別れ、私は自分のクラスへ戻った。