その後席についた私はクラスの女子たちからの質問攻めで大変だった。
「星野さん真面目そうなのに何でこんなとこに来たの!?」
「声が出ないってほんと!?」
「てかてか!超ぉ〜可愛いんですけど!!」
「まつ毛なっがぁーい!肌スベスベ〜!」
「え!ずるい!!私も私もー!」
出来すぎたお世辞を口にしたり、私の顔を突っついたりと女子達の興奮は治らない。
予想外だった。
ただでさえ違うタイプの人間、ましてや初対面で声が出ないなんてインパクトのあることを言われたら、普通は近寄りがたい印象なはず。
昼休みはそんな彼女達から逃げる様に教室を出た。
お弁当を持って廊下を歩く。周りの人の視線が体のあちこちに刺さる。
(そういえば…)
まだ千鶴に会っていない。千鶴のクラスはあらかじめ聞いておいた。
(5組…)
『2 - 5』と書かれた教室の前に立つ。ここに千鶴がいるはず。
ガラッ
中に入ると教室にいる数人がこちらを振り返った。
「誰!?」
1人の男子がそう叫んだ瞬間。全員が一斉にこちらを向く。
(帰りたい…。)
いつもは気にならない視線も、たった1人で心細い今の私にとっては地獄。
「おぉ!かなたーーーー!!」
そう真っ先に叫んだのは千鶴、もとい綺麗な顔立ちの男子。
!?
その子はバタバタと走ってきて、その勢いで私に抱きついた。
「久しぶりだなー!!彼方!!会いたかったぞ‼︎‼︎」
(あ…。この子…。)
千鶴だ。
見た目は完全に男の子だが、確かに千鶴だ。
中学の頃の面影は一掃されている。
中学の頃は床につきそうなほど長くしていたスカートを履いていたのに、今は男子の制服を着ている。
金髪で長かった髪も、茶髪の短い髪になっていた。
「あの子…八島と仲良いのか?一体何者…?」
「てか、スッゲェ可愛くね?」
「清純派って感じ?」
「わかるわー」
「でも何であの八島と…?」
ヒソヒソと誰かが話している。私は、出来すぎたお世辞には気を止めず『あの八島』という言葉を拾った。
あの八島。この学校でも千鶴は有名なのだろう。彼女は全国No.2の暴走族「黒蝶」の総長をしている。
黒蝶の総長は正体を表に表さず、性別も不明という事にしていた。千鶴自身も周りに明かそうとはしていなかった。
(バレてる?……でも何で男装してるの?)
「場所移そうぜ」
そう静かに言って、千鶴は私の手を引いて教室を出た。