相田先生が歩みを止めた。どうやらここが私のクラスらしい。『2 - 2』と書かれた教室。扉越しに賑やかな声が聞こえる。


「俺が呼ぶまでここで待っていてくれ」


そう言って先生は教室に入る。


「おーら。席つけー。今日は転校生紹介するぞー」


ザワザワ…


賑やかだった教室がさらに騒がしくなる。先生が「もう少し静かにしろよー」と言っても効果はない。


「入って良いぞー」


私は教室のドアを開け中に入った。瞬間、教室がシン…と静まり返る。


(予想外なのが来たと思われてるんだろうな)


自分でも自覚はあった。クラスにいるのは100%髪を染めたり、これでもかと言うほど制服を着崩した生徒。


一方の私は髪はそのままの黒髪。みんなの着崩しとは無縁のごく普通の制服姿。


スカート丈が膝上というのが唯一の着崩しなんだろうけど、膝上10cm程度ではごく普通の高校生だ。


他の女子なんかは髪色も様々で巻いたりもしていた。スカートなんかは膝上20〜30cmくらいで中が見えてしまいそうだった。


今更ながら嫌になってきた。


「あー。今日からこの学校に通う 星野 彼方 だ!みんな仲良くしてやってくれ!それとー…」


少し言い止まって先生が『言ってもいいか?』といった顔をしていたので私は静かにうなずいた。


「彼方は色々あって声を出す事ができない。その辺、理解してやってほしい。」


そう、私には声がなかった。正確には声がなくなった、と言った方が正しい。


小学校低学年の頃。家族が事故で亡くなり、叔父に引き取られた私は人と話す機会を失くした。


低学年という事もあり、まだちゃんとした友達ができていなかった為、私は少しずつ口数が減っていった。


小学校の先生たちも気を使って話そうとはしなかった。叔父も仕事が忙しく先生たちと同じように気を使ってくれていたため、私は話せなくても良い生活を送り続けた。


結果。中学校に上がる頃には、すっかり声の出し方を忘れてしまっていた。


(嫌だと思った事はないけど)


話しかける人が少ない分、私は静かな時間に浸れた。


そうして今に至る。


「じゃあ、これで終わりにするぞー!彼方の席は新しく作ったから窓際の1番後ろな〜!特別特等席だ!!」


相田先生はイタズラっぽく笑い教室を出て行った。