夏時計



『絵、完成したら見せるって言ったでしょ?』



その約束は今、果たされた。

10年前の約束。





あの夏に消えた彼女は
今、僕の腕の中。



「ねぇ、禅?」

「ん?」

「本当に、私が幽霊だと思った?」


僕の胸元で小さく笑った深夏は視線を上げた。

その笑顔は、僕の心を揺さぶって。




「まさか。思う訳ないだろ?」


ゆっくりと近付いた唇が触れた時、あの夏の日々が鮮明に浮かんだ。






…消えないで。



あの日、僕は願った。


時なんて
止まってしまえばいい。


僕の想いも、この夏も。




君という名の夏に

刻まれて、永遠に焼き付いてしまえばいい。



あの溶け出すような
夏の幻に包まれて

僕は、願った。




……消えないで。



僕の心に刻まれた
君の笑顔も、その声も。

全て、この夏に
連れさらわれてしまわないように、と。




そう僕は
強く願ったんだ。


永遠に続く、この夏に。





fin,