夏時計



そんな事――……



「せんせ?夏目先生!」


僕は山口の声を背中に聞きながら走り出した。





嘘だ、嘘だ、嘘だ!



だって、彼女はあの時
既にこの世に居なかったはず。



なのに、どうして
あの年にあの絵が描けるんだ?



やっぱり、深羽。


君は幽霊なんかじゃ…。




頭の中が混乱してゆく。

絡み合う思考の最中、深羽との日々が交錯して。



…深羽、頼む。


どうか――――…





ぐっと拳を握ったまま館内を走り続け、曲がり角に差し掛かったその時。


「うわっ!」
「…きゃ…っ!」

ドン!と鈍い痛みが肩先に走って、僕の足は止まった。




「……ってぇ…。」

痛む肩を押さえて息切れしたまま、目の前に座り込む人に視線を下げる。





それはまるで、全ての時が止まったような感覚。

あの夏が、ゆっくりと反芻してゆく。






「……深、羽…?」