夏時計



「これ。」

そのまま人気のない場所まで僕を連れてきた山口は、ある一つの絵を指差した。




「ね?綺麗でしょ?」

山口は、目を丸くした僕の反応を見て満足気に笑う。





「……この絵…、」


だけど僕が驚いているのは、この絵がどの絵画よりも美しい、とか際立っている、とかじゃなく

見慣れたあの景色だったから。





あの夏の、ホームから見える景色。

深羽と見た、風景だったのだ。





「…嘘だろ?だって、彼女は……。」

僕はその飾られた絵の右下に書かれたサインに視線を向ける。




―――心臓が、ドクンと高鳴った。




【miwa.1998.08.18】



「…み、わ……?」


夏が蘇る。





1998年。


それは
僕が深羽に出会った夏。