だけどやっぱり、どこかでその事実を信じられない自分がいた。
だって深羽と話したあの日々は今でも僕の中に色鮮やかに残っていて。
彼女に恋をしたあの夏の思い出は、10年経った今でも色褪せる事なんてなかった。
――あの時から僕の心は
10年前の夏から動き出せずに、未だ消えない想いを抱えている。
「…未練たっぷりだな、俺。」
ははっと自傷気味に笑うと、肩を叩かれて僕は、はっと後ろを振り返る。
「夏目せんせー、独り言?」
「なんだ、山口か。どうした?」
そこにはクラスの中でも一番大人しい山口が僕を見上げていた。
「すごい素敵な絵があったの。せんせーはどう思うかなぁって。」
「そうか。どれどれ?」
引っ込み思案の山口が、僕に声を掛けるのは珍しい。
そんな山口の後ろ姿を微笑ましく追い掛けた。

