夏時計



彼女の笑顔に多少の違和感を感じながらも、僕は「そっか。」とだけ答えて再びホームを歩き始めた。


本当は今すぐにでも振り返って、彼女の笑顔を見ていたいのに

そうはさせまいと訳のわからない男のプライドが邪魔をしてくる。



去り際はかっこよく、なんて考える僕は今の中学生にしたらマセてるかもしれない。

そんな複雑な心と葛藤しながらホームの端まで差し掛かったその時。



「禅っ!」

深羽の通る声がホームに響き渡った。

一瞬だけ、この世の全ての音が鳴り止んだような柔らかい静寂が僕たちを包み込む。



そしてゆっくりと振り返ると、初めて会った時のような冷たい風が僕の肩をすり抜けていった。



「……深羽?」

気のせいだろうか。


僕の瞳には何故か、彼女が泣いているように見えた。