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 黎明館の建物は、御殿のような広壮な邸宅の作りで、中庭には大きな池と小橋を渡った中央に大きな桜の木がどっしりと構えていた。ここはまだまだ寒い、この桜の木がめぶくにはまだ時間がかかりそうだ。今年、東京では桜の開花が早いとニュースでやっていた。あと、数日もすれば東京も花見日和になるはずだ。

(あの桜の木……)

 花城の待つ部屋に向かう途中、ふと、廊下から見えた桜の木に美貴は目をとめた。

(大きな池に橋……桜の木――)

(なんだろう、この感じ……すごく、懐かしいような)

(本当に私、昔ここに来たことがあるの……?)

 父は自分が以前、ここに来たことがあると言っていたが、いくら記憶をたどっても結局、黎明館に来たことを思い出すことができなかった。そして、あれこれ考えているうちに、総支配人室の前にたどり着いた。

「失礼します。本日よりこちらでお世話になります。深川です。ご挨拶に参りました」

「あぁ、入ってくれ」

 その低くて凛とした声音に、美貴の心臓がドキドキと波打つ。緊張しながら美貴は総支配人室のドアを開いた。

「あ……」

 部屋の中に一人の男が正面を向いて立っていた。


 すっと背筋の通った端正な顔立ちの長身で、自分のスタイルに合ったスーツをそつなく着こなしている。前髪を後ろに撫で付けた髪型は、清潔感に溢れいかにも総支配人という風格を表していた。その雰囲気に呑まれて美貴は思わず足を止めてしまう。