そう言った翔琉くんの目は
何にも映してないかのように
まるで、私を透かしてずっと遠くを
見据えているように見えた。

そして、ひどく顔を顰めて
私を睨んだ。




「馬鹿なんじゃねぇの」




翔琉くんはさっきまでとは
まるで違う形相で
声を荒らげては私の胸ぐらを掴んだ。




「あいつは………気が楽だから
美桜さんを置いてくんじゃねぇぞ!!
生きたくて生きたくて……………」



「じゃあ生きてよ!!どこにも行かないで…………!!」


その叫んだ声は、私の歪んだ心なんかよりよっぽど正直で、素直で。
だけどどんなに素直に伝えたって、叶わない願いなら…………。


「神様なんていない。でも、私が楓の命になることはできる」


神様が居ないなら、私がなってやるんだ。

私達が出逢ったあの頃。
私は、何で楓が私に病気のことを黙って
私に別れを告げたのか、わからなかった。
楓が私を想ってしてくれたことだっていうのは分かっていたけれど、その気持ちが理解できていなかった。


───今なら分かるよ、楓。


命より大切な人が居る。
どうしても幸せになってほしい人が居る。



「あの時私に別れを告げた楓は、
幸せだったんじゃないかな?」


私の急な言葉に、翔琉くんは怪訝そうに眉を顰めた。


「だって今私幸せなんだもん」


誰かの、自分以外の大好きな誰かの
幸せを願うことがこんなにも幸せなんて。




───楓が、おしえてくれたんだよ。