しばらくして、俺は一人で
楓の運ばれた病室に入った。


楓の細身の身体には、
いつも異常にたくさん繋がれていて、
まるで張り付けにされているみたいだな
………なんて思った。



本当に数時間前まで
馬鹿話してた奴なのか?
なんかまるで別人じゃねぇか



何を呼び掛けるでもなく、
語るわけでもなく、
ただしばらく楓の姿を見詰めては
現実感、とやらに
手を伸ばそうとしてみた。


すると突然に、


楓の大きな瞳が薄く開いた。


「楓………………?」


瞳孔は確かに俺の姿を
捉えたけれど、
その眼は俺を映してない。
何故かそう思った。


俺を透かして
どこか遠くを見詰める瞳から、
一筋の細い涙が頬をつたう。



「………俺……は………のに…………」



今にも消えそうな声で
泡のように何かを呟いた。


いや、訴えた……?


「何だよ、楓!?」


楓は振り絞るようにもう一度、
乾いた唇を動かす。




「俺、は………美桜……には………
な……れない…の、に………」







…………………………………え?