ストレッチャーに乗せられた楓が
集中治療室から出てきた。
俺と雪娜は追いかけたが、
楓は目を閉じたままで
俺たちをその目には映してはくれない。
「なんや………………なんてゆうか…」
別の病室に運ばれていく楓に
目線を向けたままに、雪娜が言った。
「現実感よか先に現実感が
気てしもうた感じなんや今…………」
俺には、雪娜の言っていることが
すごくよく分かった。
きっと楓だっておんなじだ。
「死んだこともないのに、死ぬとかよく分からない」ってあいつも言ってた。
どれだけ重い言葉で教えられても
俺たちに現実感なんかなかった。
だって生きてるんだ
ついさっきだって俺と馬鹿話で笑ってた。
それなのに、死ぬ……?
明日が来たら、楓は居ないのか?
そんなのわかんねぇよ。
言われたってわかんねぇよ。
「理解も覚悟も
してたつもりやったのに……」
「雪娜…………………」
「カエちゃんが居ない世界なんて
想像できないやろ?」
「───────したくもねぇよ」
心の何処かで、逃げてた。
でも気づいた時にはもう
遅かったんだ。
現実感は、手の届かないほど
まだ遠くにあるのに。
どうして、現実には
手が届いてしまうんだ。