今日、楓の病室を訪れると
珍しく楓が目を覚ましていた。


そんで俺の姿を捉えて、一言。



「久しぶり」



やめろよ、悲しくなるじゃねぇか。



「久しぶり、じゃねーよ
毎日きてんのにお前が寝てるからよ」



楓はきょとんとした後
フッといつもより優しく笑う。




「そうなんだ?最近寝過ぎたかも
身長伸びないかな?」



「ばーか」



またそんな冗談が言える楓に
ほっとしてしまう。

最近、お前ずっと
苦しそうだったもんな。

こんな風にしっかりと
会話をすんのも久しぶりだ。



「早く学校行きたいな」



ふと独り言の様に
楓が呟いた。




「皆に会いたい」




「おいおい、皆ちょくちょく見舞い
きてんだぞ。お前は寝てるけど」





「え?そうなの?」




「じゃあ、小児科のやつらも来てるって
お前気づいてないのか?」




「──────全然………」




はぁあ、とでかい溜め息をついて
楓は項垂れた。



「やばい……も…普通じゃないな」



本人もショックだったんだろう。

自分は確かに生きているのに、
普通のことを
普通に感じられなくなったことを。



「なんか…………怖い……かも」



震える声。



「何がだ?」



分かりきってんのに、
聞き返す俺。







「俺………………死ぬのかな………?」







楓の白い肌を、
透明な雫が横切る。
気のせい………………
多分気のせいのはずだ。



だけど、
楓が初めて俺に見せた、
弱味だと思った。




「前はこんなに…………細くなかった」



貧血のせいか、青白い腕。
かなり痩せこけてしまったその腕を
楓は目の前に持ってきて一瞥した。



「前は簡単に………起き上がれた」



なにもかも変わってしまった。


"透析治療"なんて言うけどさ、
一ミリも治しちゃくれない。


ただ、死を引き伸ばす
言ってしまえば悪あがき。



俺も楓も、
必死に目をそらしてきたけど
やっぱりいつまでも
そうしては居られない。




「俺…………普通になりたいんだ。
………………贅沢かな?」




「────ちっとも
贅沢じゃねぇよ」




当たり前じゃねーか。
生まれた時は皆平等なんだ。

もし俺が、雪梛が、美桜さんが、
道を行く人が、"普通"だと言うのなら

楓だって平等に
普通にさせてやってもいーじゃんか。
楓が何をしたって言うんだ。



だけど、お前はいつだって
前ばかり向いている。




俺は、分かってんだぜ?
"俺、死ぬのかな?"なんて口にしたお前が
まだ、生きることを諦めちゃいないこと。