でも、今度はもういいよ。
ありがとう。









突然、目の前が灰色に曇って
スクリーンのように
何かが映し出された。




簡素なリビングの
ソファーに座る女の人。
髪色が派手で化粧が濃いけど
あれはきっと、お母さんだ。

じゃあ、抱き抱えられている
赤ちゃんは俺?

その横でお母さんのシャツの
裾を引っ張る3、4歳の女の子が
美桜なのかな。



じゃあなにこれ
俺の記憶?

まさか、
だって…まだちょっとしか目も見えない
赤ちゃんじゃないか、俺。


でももしかすると………
スクリーンにもやがかかるのは
そのせいなのだろうか。









お母さんは、いかにも大切そうに
俺の髪を撫でていた。



「ねぇママー
こうえんいこう」




美桜がまた
お母さんのシャツの裾を引く。




「今日は楓が熱出してるから
一人で行きなさい。
夕方は病院行くからそれまでに帰らないと
家の鍵を閉めるからね」



目も合わせない。



「それで大人に保護されても
ウチの子だって言うんじゃないよ
出生届出してないんだから」



そう冷たく言い放つお母さん。
あんまりだ、と叫びたくなる。



「みおもいっしょにいくー!」


「出生届出してないんだから
駄目だって言ってんでしょ!??
分かんない子ね!
あんたはうちの子じゃないの!!」


一緒に病院についてくると
駄々をこねる美桜に、
お母さんはカッとなって
そんなことを叫ぶ。



「醜い………あの男の……子よ」





その言葉に、美桜は
目に涙を浮かべて
真っ赤な顔でわなわなと奮い立つ。








「おとうとなんかいらない!
そのまましんじゃえばいいんだ!」





その言葉は、槍のように
鋭くなって

弟の胸に突き刺さって抉る。







幼心にもショックだったのか、
赤ちゃんの俺も泣き出す。



美桜も声をあげて泣いていたから
まるで部屋の中は
動物園のように騒々しい。


そんな状況に
お母さんは窶れた顔で
頭を抱えた。