大嫌いなはずなのに。


捨てたはずなのに。



心は全部、あの家に置いてきたのに…。







向こう側から聴こえる
懐かしい声に涙が止まらなくなる






「…………………………………助けて」






情けない言葉を
ボロボロと放ってしまう。





『……………………………あなた………
…………美桜ね?』






楓じゃないと気付いて、
あなたが口にするその名前。


酷く懐かしくって
なにもかも
溶けていってしまった。









「お願い…………………楓が……死んじゃう………
助けて…………………助けて…ママ!!」







気付いたらそう、叫んでいた。



二度と、呼ぶことのないはずの
言葉だったのに。


不思議な気持ちだった。


するすると糸が切れたように
張り詰めていたものが
背負っていた重荷が
地面に落ちていくのを
見た気がした。








「──────待っていなさい、美桜。
ママがすぐに助けにいくわ」






そう伝えるママの声は
あの頃のように落ち着いていた。












場所も聞かずに切れた通話だった。
なのに……………数分もしない内に
ママは崖の上に居た。





「……………………どうして」





「…探してたのよ、あのお邸を
あなたたちが居るんじゃないかって」



すれ違った…………てこと?
………でも、それにしても……………。





「なんで……………分かったの?」




私達が、ここに居ること。