今日は、楓にちょっとした
プレゼントがある。




制限のきつい楓でも食べられる
素材で作られた、特別なクッキー。



喜んでくれるかなぁ?




わくわくしながら楓の病室へ
向かおうと病棟の入り口に来たら、
突然、正面から走ってきた人に
衝突してしまった。



───患者さんかも!
大丈夫かなぁ……………。



心配で顔を覗きこんだ。すると…



「楓?!」



衝突したのは楓で、
辛そうに息を吐く。
走ってきたのだろう。



「楓…一体どうしたの?」



楓は必死に首を横に振る。
そして、とびかかる勢いで
私の両肩を強く掴んだ。




「美桜………来ちゃダメだ!!」




その喧騒は、明らかにいつもとは
様子が違う。





「どうしたのよ、楓!?」





すると、楓は握り締めていた写真を
開いて見せてきた。





「え…………これって………私…?」











楓は、静かに頷いた。



「なんで…………楓が…この写真を?」




声が震える。
嫌な予感しかしない。


だってこれって……………
私のパパとママじゃない。


それを楓が持っていて……………

楓は、四歳年下で………………………



まさか………………!







「──姉さんは……鋭いね」







ぐにゃりと世界が歪む。



だってまさか……………


そんなっ………




楓が倒れた日に挨拶をした

あの優しい上品なお母さんが…………


ママだってこと……………?





私を捨てたママなの…………………?








じゃあ、私が「死ね」と
罵ったのは

心から憎んだのは………………





楓だったの?








──────……………………そんな……っ








「16年間。美桜を苦しめていたのは
紛れもなく、俺だったみたいだ」




苦しそうに目を逸らした楓が
ばつが悪そうに呟いた。






「俺らもう………会わない方がいい」





そんな……………



「………いや!無理!
会わないってどうするの?!
楓は病院を飛び出して、
どこに行くのよ!?」






「宛はあるんだ」





「じゃあ私も連れてってよ!!」






ずっと俯いたままだった楓が、
目を見開いて私を見つめ返した。



「駄目だ…………」




何故?

どうして、私たちが
そんな目に会わないといけないの?

引き裂かれないといけないの?






「もう………………誰も壊したくない……!」






その血を吐くような叫びに、
私は震えた。

気づいたら私たちは
二人とも
涙を堪えられなくなっていた。



冷たい涙を溢す楓の
小さな胸に寄り添った。





「壊してしまえばいいの」






楓の、驚いた息。





「何もかも……壊して……
逃げちゃえばいい……
今度は私が捨てる番だよ。」





「美桜………………」






「ねぇ…………さらってよ……
私たちのこと誰も知らない場所まで……
私をさらってよ…………」






涙味の、口付け。



こんな、

こんなに悲しいファーストキスが
あるのだろうか。









楓は、私の腕をひいて
何も言わずに走り出した。




良心は、捨てた。



真心は、死んだ。




残ったのは、
幼いわがままと




楓への想い。









何もかも捨てても、
君となら生きていける。









楓が、振り返ることはなかった。