「ゆきだるま造り、おつかれさま」


素手でミニゆきだるまを造った後、
テラスのベンチで
しもやけに息を吐きかけている翔琉くんに
自販機で買った
温かいココアをプレゼント。

今日は、翔琉くんにも
お世話になりましたから!


「おーさんきゅ!楓は?」


二言目に楓の話しかぁ……
本当に気に掛けてるんだなぁ。


「ん。透析室」


「あ、そか。忙しいな……アイツも」


自分用のココアを飲みながら、
翔琉くんの横のスペースに
腰を掛ける。


静かな沈黙。


先にそれを破ったのは、
翔琉くんの方だった。





「アイツ…………あれでも結構
落ち込んでたんだぜ?」





「えっ?
思わず聞き返す。



「だって、次はいつ
退院のチャンスが来るのか
想像もつかねぇじゃん」


翔琉くんの真剣な横顔を見つめる。



「今までも何度もチャンスはあったんだ。
だけどその度に失敗してたから、
もう楓も諦めかけてたんだ」



「え……?」




「だけど、今回は珍しく気合い入ってた。美桜さんが居るからだよ。
なのに失敗しちまって……アイツ……
結構美桜さんに申し訳ない
気持ちだったのかも」



「申し訳ないだなんて………そんな」




私……楓に負担をかけてた……?



不安になって私がうつ向くと、
翔琉くんはすっと顔を近付けてきた。
そして、くんくん匂いを嗅ぐ。

驚いて見つめ直すと、
翔琉くんはニヤニヤと笑っていた。



「向日葵の香り、でしょ?」



……………………え!?

楓にもらった香水つけてきたの
…………気付かれた!?




「アイツ今日なんか
テンション高かったんだけど。
なんか関係あんの?」



ボッ、と着火したように
頬が熱くなる。



「ち、ちがう!別に
楓にもらった香水とかではなくて………」


「え、楓から貰ったの?」



うわ!
墓穴を掘った!

恥ずかしい……………。



「まぁ、知ってたんだけどさ」



────ん!?



驚いて固まる私を見て、
翔琉くんは呆れ顔で
馬鹿にするようにケタケタ笑う。





「当たり前じゃん。
嗅いだだけで向日葵なんて分かるほど
向日葵の匂いなんて嗅いだことねーし。
からかっただけだし?」




それは……
確かにそうかもしれないけど!


からかわれてたなんて!
恥ずかしすぎる!





でも、翔琉くんと仲良くなれたから
ちょっぴり嬉かったんだ。






だから、この時は何も知らずに
笑っていたんだ。