「絶対、水着なんて持って来ないでください」と、私を睨むようにして言う広重が目の前にいた。


「言われなくても、持っていかないよ」


だって、水着なんて着れるものなんか持っていない。タンスの奥底に眠るのは、数年前に買った、まるでマンモスとでも呼ばれそうな古めかしいデザインのものだけ。


それを着て、海に行くなんて私でさえ嫌だった。


広重にだって見られたくないし。


「肌の露出は、控えてくださいね」


「まあ、日焼けしたくないから」


それ以前に、やっぱり不安がよぎって、「やっぱり、いかないからいいよ。広重、楽しんでおいで」と、寝返りを打った。


「ダメです」と、背中を向けた私を優しく抱き寄せた。


そうしてくれると、わかって背中を向けた私は、どこかズルいのかもしれない。


首筋に柔らかい唇を押しつけるから、くすぐったくて震えた。


「だって、千花さん気になるんでしょ?」


「信じてるから、大丈夫だよ」と、言ったのに、「だから、ダメです」と、今度は舌を這わせて遊んできた。


「やめて。くすぐったい」


嫌がっているせいか、少し本気になる。ダメだと思ってるのに、私もつられてしまいそうだった。