◇
翌日。
バスに乗り込むと、なぜか、隣に広重が座っていた。
「えっ?」と、驚いてしまった。だってここは田原さんの席だ。
「いやー。千花さんの隣、譲ってもらっちゃいました」
「はっ?」
「今日は一緒に回ってくれませんか?」
「なに言ってるの?広重?」
「だって、こういうときじゃないと」
足音に気づいて振り向くと、にやりと笑った田原さんがいた。パっとポケットからタバコを取り出して。
「田原さん?」
「今日くらいは優しくしてやれよ?」
「もしかして……買収されたからって、広重の肩持ちですか?」
「長いものには巻かれろ」と、タバコをぽんっと私に投げて渡した。
「これで、遠山も広重に買収されたな。今日くらいはデートしてやったら?数時間の我慢」と笑って後ろの席へと行ってしまった。
「ちょっ……田原さん?」
「契約成立ですね」と広重は笑った。
「はっ?」と言うと、乗車口から明るい声がした。水谷さんだった。



