一瞬、頭が真っ白になった。 だけど、引っ張ったその腕も声も広重だってわかったから、恐くはなかった。 「ちょっ……なにす……」 「しっ」と人差し指を立てて、黙らせると、広重は身をかがめながら私を抱き寄せた。 「ひ……ろ」 「千花さん。人が来るから黙って下さい」 人の話声が段々近づいてくるのがわかった。 会社の人だとしたなら、見つかってしまうのは困るのだけれど。 たぶん男女。なら、恋人だろうか。 こんな時間に会うなんて、そうとしか思えない。