できる。そのくらい。軽く彼の唇に口づけをした。
「したけど?」
そういうと、髪の毛をかきむしった。
「千花さん、俺のこと、子供だと思ったでしょ?」
悔しい、と広重は言った。
「思ってないよ。決めつけないで」
「だってさ」
こんなんじゃ、俺のほうが怒ってるみたいじゃん、って拗ねた。
「そうかもね」
「今日、不安になりました」
「不安?」
「谷さんとばかり話してるから」
「だって、隣だったから」
「その隣にもいたじゃないですか?」
「そうだけど。なんか、谷くん話しやすくて」
「それだけですか?」
「え?」
「谷さんのこと、気になってませんか?」
「まさか」と笑って返す。
脳裏にちょっと過ぎるのは付き合っている彼女の「真面目」なとこが好きと言った彼の言葉。
「なにか、今考えたでしょ?」
「考えてない」と、言うと、私の手首をギュッと捕まえた。
「谷さんのこと、好きにならないでくださいよ?」
「何言ってるの?そんなことあるわけ……」
「だから、嫌だったんだ」と広重は力なく言った。



