壁のスイッチを押すと、暗かった廊下に光が落ちる。
自分の家なのに、一歩踏み入れるのに躊躇ってしまう。
「お邪魔します」と先に靴を脱いだ広重の怒ってるような背中が嫌だった。
2人掛けのソファに先に広重が座ると、ネクタイを緩ませた。
いつもなら隣に座るのに、わざとテーブルを挟んで向かい合わせで座った。
「千花さん。本当なんなんですか?」
「え?」
「言いたいことがあれば、はっきり言ってください」
「言いたいことなんか、別に」
「じゃあ、こっちに来てよ」と私を見つめながら言う。
「来ないの?」
「行ける」と、彼の隣に座った。
「怒ってるでしょ?俺、なんかした?」
無自覚って、恐い。だけど、水谷さんに妬いてることなんか言いたくなかった。
「別に」
こんなんじゃ、話は平行線で終わってしまうのに。
「じゃあ、こっち見て」
「え?」
「なにもないなら、キスして」



