先にタクシーを降りて、道路の反対側に渡ろうとすると、「ありがとうございました」と窓から水谷さんが叫んでいた。
なんのことだろう、と思って立ち止まる。
少し多めにだしたタクシー料金か、と気づいた。
慌ててお礼を言う様が可愛いし、酔っていてもお礼を言う彼女はいい子なんだと思う。
私はなんて醜いんだろう。ただただ、嫉妬してるだけで。
水谷さんのことでさえ、ちゃんと見ることが出来ないなんて。
鬼千花、と社内でつけられている私のあだ名は合っていると思った。
私のこと、よく知っているよ。感心しちゃう。
自動販売機の角を曲がったときだった。
「千花さん」と、広重の声がしたのは。



