「私の中じゃ、いちばん好きに、違わない」


呟くと。


「千花さんは、いっつもずるいです」

と、言った。


「へ?」


「好きって言って、あっさり別れようって言って、なのに、振り返ったら泣いてるなんて」


下まぶたのふくらみにも、キスをする。チュッと軽く音がした。涙を吸い込もうとしてくれてるみたいだった。


「千花さんに、毎朝、こうしてキスしたら、好きって伝わりますかね?」


「毎朝、一緒にいれないじゃない」


「そうですけど……」と、キュッと指を絡めると、おでこにキスをした。


「てっきり、俺たちの子がいるのだとばかり思ってました」


「あ……ごめんね。早とちり」


「本当ですよ」


あーあ、と言った。残念そうに。


「結婚して、千花さんをひとり占めしたかったのに」


「いつだってしてるじゃん」


「そんなことない。俺だって、不安ですよ。千花さんに疲れたから会いたくないって言われただけで」


「ひとり占め、してるよ」


「どこがですか?」と、疑わしいのか、目を細めた。


「だって、私の心の中、広重しかいないよ?」


そうやって、ひとり占めしてるくせに、気が付かないんだね、と言ったら、目を丸くして、それから、優しく笑った。