「ああ、もう」と、声がすると、乱暴に腕を取られた。
それから、その乱暴な腕が、ギュッと私の身体を抱きしめた。
「ちょっと、広重」
「あの……」
「なによ」と、強がるのに声が上ずってしまう。
「俺を喜ばせたかと思ったら、落ち込ませるし。本当、なんなんですか?」
「えっ?」
「千花さんって、俺のことになると、どうしてそんなにおバカになれるんですか?」
「バ……バカって」
人がどれだけ悩んだかと思ってるんだ。悔しくて、唇を噛んだ。
「まず、なんで、俺が千花さんに対して気持ちがないとか思うんですか?」
「だって言ってたじゃない。梶間食堂で、水谷さんに、私と付き合ってなくて、他に彼女が出来たって。私が異動になったから、丁度いいって言ってたじゃない。水谷さんには、私との関係、本当は言ってたんでしょ?」
「あのとき、いたんですか?」
「いたよ。聞こえたの。盗み聞きしてたわけじゃないからね」
「いや別に、盗み聞きでもいいですけど。水谷っちに千花さんとの関係、俺、喋ってないですよ」
「嘘だ。だって、私と広重が付き合ってること知ってたもの」
「そりゃそうですよ」と、呆れたように言われた。



