強引な彼との社内恋愛事情*2


なら……やっぱり。


「広重、安心して。私、妊娠してなかったから。遅れてちゃんときたから。もう気にすることは、なにもないから……今までありがとう。本当に楽しかった」


もっと言いたいことが、たくさんあるはずなのに、言葉がでなかった。


広重も同じなのかもしれない。


私を見ているだけで、なにも言わなかった。


最後は笑顔で。なんて思わないし。汚いくらいでもいいと、今は、思った。


それなのに、不思議と涙はでなかった。


別れるんだって事実を、別れを告げている私自身が受け入れていないのかもしれない。


「じゃあ、またね」と、向き合って彼に言った。


広重から、言いたいことはなにもないみたい。


静寂が2人を包んでいるのに、私、ひとりだけみたいだった。


カツンカツンと、アスファルトを踏みしめる。やけに通る音だと思う。冬の夜のせいだ。


広重の耳にも、届いているのかな。


もう聞こえなくなっても、いいんだ。


例えば、こんな私の足音とか、私の声とか。必要ないんだ。


いつから、必要なかったんだろう。


広重との距離が、広がるにつれて、ようやく涙腺が緩み始めた。


意地っ張りなのかもしれない。目の前で泣き崩れて叫んでみてもいいと思うのに、肝心なところで、そうならないんだもん。


夜で良かった。泣いたって、誰にも見られることはないのだから。