なら……やっぱり。
「広重、安心して。私、妊娠してなかったから。遅れてちゃんときたから。もう気にすることは、なにもないから……今までありがとう。本当に楽しかった」
もっと言いたいことが、たくさんあるはずなのに、言葉がでなかった。
広重も同じなのかもしれない。
私を見ているだけで、なにも言わなかった。
最後は笑顔で。なんて思わないし。汚いくらいでもいいと、今は、思った。
それなのに、不思議と涙はでなかった。
別れるんだって事実を、別れを告げている私自身が受け入れていないのかもしれない。
「じゃあ、またね」と、向き合って彼に言った。
広重から、言いたいことはなにもないみたい。
静寂が2人を包んでいるのに、私、ひとりだけみたいだった。
カツンカツンと、アスファルトを踏みしめる。やけに通る音だと思う。冬の夜のせいだ。
広重の耳にも、届いているのかな。
もう聞こえなくなっても、いいんだ。
例えば、こんな私の足音とか、私の声とか。必要ないんだ。
いつから、必要なかったんだろう。
広重との距離が、広がるにつれて、ようやく涙腺が緩み始めた。
意地っ張りなのかもしれない。目の前で泣き崩れて叫んでみてもいいと思うのに、肝心なところで、そうならないんだもん。
夜で良かった。泣いたって、誰にも見られることはないのだから。



