「お前、男出来ただろう?」と、駅前の居酒屋に行って、乾杯をした途端、田原さんが言った。
「は?なにを言ってるんですか」
「なんか、最近、変わった気がしてな」
「変わりませんよ」
「なんか、こう、綺麗になったんじゃねーか?」
「田原さん。それを世間ではセクハラと言うんですよ?」
「こんくらい大目に見ろよ」と、お通しの煮物に手を伸ばした。
田原さんと2人で、飲むってあまりない。
ちょっと緊張してしまうのは、昔、好きだったこともあるけど。
急にそんなことを言うせいだ。
調子が狂ってしまう。
手持無沙汰で、ついつい目の前にあるピーチサワーにばかり手が行く。
「ピッチ、早すぎ」と、笑われた。
「田原さんが、遅いのでは?」なんて言ってみると、「俺と勝負しようって?」と、つくねに手を伸ばした。
ぽつぽつ社内の話や、田原さんの奥さんの話をしていたときだった。
「そういやさ」と、おもむろに口を開けたのは。