昼休みになると、広重は「千花さん、お昼どうですか?」と声をかけてきた。
「送らなきゃいけないメールがあるから、まだ行かないけど」とそっけなく返す。
広重は、「千花さんとランチがしたかったのにな」とヘラヘラ笑った。
ああ。もう可愛いなと思ったけど、「そう。じゃあ、また今度ね」と、下を向いた。
一緒に食べたい、と思っても言えなくて。
ランチに行くのは、付き合ってからまだない。
勿論、噂が恐いから、行かない。
広重もどこかでそんな私のことを、わかってくれてるんだと思う。
付き合う前と、傍から見たら変わらない関係を築いていきたいことを。
そんな茶番劇に、毎日付き合わせてる気がして自分がひどく我儘な人間にも思えた。
だけど、広重も深くは言わない。
名前で呼んでとか言うけど、会社内での関わりあいについて、文句ひとつ言ったことがない。
付き合うってこれでいいのかなって、久しぶりの両思いに私は戸惑っていた。



