こんなはずじゃなかった。


私のデスクから見える広重を見て思う。


あの横顔を見て、胸が苦しくなるなんて私ひとりだけでいいのに……なんてことを考えるようになってしまうなんて、いい歳してどうかしている。


メールの返信をしようと、パソコンに視線を落とすと「千花さん」と呼びかけられた。広重だった。


「すみません。今、大丈夫ですか」


「ああ。いいけど」


広重は配属のチームが変わって、カメラチームに異動になった。だから、同じフロアで過ごすことが以前に比べると多くなった。


今は次のプロジェクトの準備段階といったところで、さほど忙しくはない。そろそろお昼のチャイムが鳴る時間で、時計を気にする人もいた。


「仕様書の確認してたんですけど、ちょっとわからないことがあって」


「いいよ。どこ?」と、フォルダから仕様書を探して開く。


「カメラ起動後の動きなんですけど」と、わたしの横に来ると、「ちょっといいですか」とマウスを握った。


あやうく私の手に触れるところだった。


わざとなのか、どっちなのか、表情は変わらない。わざとだったら、ちょっと憎らしい。広重はなんというか、いつも余裕があるように見える。こうして多大なる意識をしているのは自分だけなのかもしれないと、たまに感じてしまう。