課長と私


「緩奈さん……傷口に塩を塗るような……」

「あー、ごめんごめん。言ったでしょ、分からなくもないって。…でも、嫌でしょ?楓が彼に同じこと言われたら。」


緩奈が洗面台に両手をついてふっと息を吐く。

先輩に、釣り合わないから一緒にいられないなんて
あんまり想像は出来ないんだけど。

そう言われたら。


「私は……どうしたらいいのか分からない…かも。」

「そうねー…。分からない…よ、たぶんあっちも。」

「あと…何でお互い好きなのに、離れなきゃいけないのかなって…」

「楓、分かってるじゃん。…もう姉さんは何もいいません。」


先輩は、ストレートにものを言わない人だけど。
私みたいに思ったのだろうか。

“離れたくない”と思ってくれていたのだろうか。
それが、うまく伝わらなくてあんな形でしか表現出来なくて。


「それにしても、その顔は今日は治らないね。」

「そんなにひどいかな…」

「お岩さんみたい。」

「うぇ…ひどい、そんなに?」


鏡を改めて見る。確かに両目は腫れぼったい。

2人で化粧室から出ていく。
ちょうど前から、今はあまり会いたいと思っていなかった彼が来てしまった。

一瞬だけ目があって、なんだか怖くてそらしてしまった。
通り過ぎる時に緩奈の声に混じるように「おはようございます…」と言った。
それだけで胸が苦しい。

しばらく1対1では上手に話せそうにない。