だから、その時の名残で彼を呼ぶときに“先輩”と言ってしまう。
プライベートの時は名前で呼んでほしいと何度か言われたことがある。
なかなか直せないのだ。
「さて…今日もお仕事頑張ろうか。」
フッと息を吐き、キーボードに手をかける。
決して大きいとは言えないこの会社は今発展途上中。
めきめきと力をつけている途中なのだ。
それもこれも、先輩が人一倍頑張っているから…だとわたしは思っている。
贔屓しすぎているだろうか。
でも、この会社が有名になって来たのは先輩がこの会社に入って少し経ったころからだったし。
なんたって部下からの信頼があつい。
部下の私が言うんだから、間違いない。
「須藤、藤崎ちょっといいか。」
彼が個室から顔をのぞかせる。
「はい。」
私と藤崎はこの部署でチーフのような存在だ。
お互いにライバル意識がある。
「お前と俺が呼ばれるんだから、次のプレゼンの話だろうなぁ」
「ですよねー」
藤崎は私の同期。
身長も高く、なかなか顔が整っているにも関わらず恋人がいるという話は聞いたことがない。
同じ部署に先輩がいて目立たないからなのか、それともコイツの性格が問題…?
「失礼します。…お待たせしました。」
課長の部屋に入ってすぐ、その話はすすめられた。
「前に話してはいたが、2人にプレゼンをしてもらう機会が出来た。再来月に少し大きめの仕事が来てな…その時に発表してもらおうと思ってる。」
「ほ…本当ですか?」
「私たちの物で…いいんですか?」
いつもは自信満々の藤崎も発表の場の規模に驚いている。
「俺は、お前たちのことそれなりに評価してるつもりなんだけどな…。」
「藤崎…私やりたいけど、この話。」
「…やらないなんて言ってないだろ。俺も…やります。」
目の前にいる彼の一言で動く私達はきっと単純なんだろう。
でも、素直に嬉しかった。
課長が私たちを評価してくれているんだということ。
部下にとっては幸せなことだ。
