「須藤さん、ここだけの話。私も同じような経験があるよ。」
「え、三枝さんも…ですか?」
「もう何年か前だけどね。付き合ってた彼氏がしつこくて…だんだんエスカレートしてって警察にも相談したんだけど、動いてくれなくて。」
「あの…何か…されたんですか?」
紅茶を一口飲んで、私の方に顔を向ける。
「あー……たぶん、須藤さんがされそうになったことと同じだと思う。」
「…大丈夫…だったんですか?」
「ううん。…携帯もとられちゃったし、成瀬さんみたいな勇敢な彼氏はいなかったから…」
背筋がぞわっとした。そこから先は考えたくなかった。
私が先輩に助けてもらえたのは運が良かったから。
きっと三枝さんは、私がギリギリ経験をしなくて済んだものを経験してしまったんだ。
「あ、あの……ごめんなさい。」
三枝さんだって思い出したくなかったはず。
私を気遣って話をしてくれたんだ。
すごく申し訳ない気がした。
「須藤さん…だから、あなたの気持ちは分かってるつもり。…どうしても出かけたいときとか、成瀬さんに頼みづらいことがあるなら、私が協力する。…だから無理はしないで。」
「……ありがとう、ございます。」
いつの間にか涙が流れて、それが頬をつたっていた。
「成瀬さんも確かに頼れる人だとは思うけど…私も須藤さんの人生の先輩として、女性として、頼ってほしいな…なんて。」
「……はい。」
今まで三枝さんに抱いていた感情はどこへ行ったのかという感じ。
目の前にいるのは私のお姉さんのような、お母さんのような雰囲気の女性。
尊敬できる女性像だ。
そんな怖い経験をしてもなお、今を明るく過ごしている三枝さんに憧れてしまった。
