うまく声が出るまでに数十分かかって、ようやく落ち着いて来た。
その間も私のそばを離れなかった彼が、ようやく部屋の明かりをつけに席を立った。
スイッチをいれるとまだ自分が靴を履いているのが見えた。
どこかで引っかかってしまったのかストッキングが破れている。
「何か飲む?…買ってくる。」
「あっ…」
傍を離れようととする先輩のワイシャツをギュッと掴む。
まだ隣の部屋にいるかもしれないあの人と壁を挟んで2人だなんて嫌だ。怖い。
さっきの光景がフラッシュバックして、また目に涙が溜まっていく。
「先輩……傍に…いて……」
「ごめん……ごめんね…大丈夫だから。」
ソファに座りなおして抱きしめてくれる。
触れたところがじんわり暖かい。
「あの…何で…私が家に帰ったって分かったんですか?」
「…楓ちゃん、午後から様子がおかしかったし……なんとなく。」
「なんとなく……ですか。」
なんとなくで私の行動先が分かるものなのか…
…超能力…。
「ねぇ楓ちゃん……落ち着いたら、俺の家…行こうか。」
「はい…」
「もう帰って来ないくらいの支度しとけば?」
「えっ…それはどういう…?」
「んー?……結構本気だったりするんだけどな…」
心臓の大きな音が体中を巡る。
意味なんて分かってる。
私自身がはぐらかしているだけで。
「準備、大丈夫?」
「…はい。」
「じゃあ、行こうか。」
足が少しだけ震えている。
先輩の大きな背中が、私より少し先にあるだけですべてを守られている気がした。
大きい右手が私の左手を優しく引っ張って誘導してくれる。
ちょっと前に震えて刺せなかった鍵もすんなり閉めることが出来た。
