課長と私


震える手をもう一つの手で掴みながらドアノブを回すと、やっぱりそこには先輩の姿があった。


「遅い。」

「すいません……」


少し不機嫌そうな先輩だったけど、姿を見てなぜか安心する。
小さく胸をなでおろした。

先輩が私の様子に違和感を覚えたのか「何かあったの」とすぐに聞いてきた。


「あ、いえ…特に何もないんですけど…ちょっとビックリしちゃって。」

「………。」


先輩が何も言わずに私の顔を覗き込む。

ちょうどそこに、さっき別れた真鍋さんがレジ袋を引っ提げて帰って来た。


「あれ、須藤さん?」

「あ、真鍋さん。おかえりなさい。」

「あ、あの…この方は…?」


そうか…
真鍋さんは先輩のこと見たことなかったのか。

確かに恋愛の話は今までにしたことが無かった。
ちょうど先輩もいることだし、紹介をしておこう。


「あ、この人は……」

「こんばんは。楓の恋人の成瀬と言います。いつもお世話になってます。」


恋人という響きに一気に顔が赤くなっていく。
先輩が言うストレートな言い方は心臓に悪いな…


「え……そうなんですか!いやぁ…須藤さんなかなかの面食いじゃないですか!ははは。」

「そっそんな…なんか、すいません」


私は赤くなった顔を隠すようにパタパタと手を振った。
真鍋さんはニコニコと笑いながら鞄の中から鍵を取り出す。

恥ずかしくなってうまく顔をあげられない。


そんな中、先輩だけ渋い顔をしていたことは私は全く気が付かなかった。