「ねぇ楓ちゃん、今日はなんでもしてくれるんでしょ?」
「うぁ……そ、そうですけで………もう…。」
躊躇の末、ベッドの端をポンポンと叩く彼のもとへ向かう。
ドキドキしながらも指示された通りの場所へ座り一息つく。
「楓ちゃん、もううちにずっと住めばいいのに。」
「えっ…いや、突然何ですか……」
「一緒に住めば、俺は毎日楓ちゃんを楽しめる訳だ。」
悪気もなくそういうことをサラッと言ってしまうのがこの人のすごいところ。
ただ、少し遠まわしに言ってくるので解読が難しい時もある。
楽しめる、って私はアトラクションか何かだろうか。
「だ、ダメに決まってるじゃないですかっ」
「何で…?」
「えと…だって、一緒に住むって…周りの人にバレたらどうするんですか…」
私みたいな一社員より、先輩の課長としての立場を考えなきゃ…
一緒に住む=恋人以上と頭の中で考えては消す作業でいっぱいいっぱいだ。
「楓ちゃんさ、俺のこと考えてくれるのは良いんだけど…そうじゃなくて、自分の気持ちで考えてよ。」
「でも……私は…えーと…」
先輩とずっと一緒にいられるなら…
そんな幸せなことがあるなら、すごく嬉しい。
私がうまく話せないでいると、寝転んでいた体を起こしていつものように後ろからぎゅっと抱きしめてきた。
気怠い風に話す彼の声が、耳にかかってその吐息がくすぐったく感じる。
「ねぇ楓ちゃん、俺…もうすぐ30になるんだけど……」
「ん?分かってますよ、もうちょっとで先輩の誕生日ですよね?」
私がそう言うと、一瞬彼の動きが止まった。
何かまずいことを言ってしまっただろうか。
「そうじゃなくて……まぁいいや…」
「え?……って、ちょっと、先輩!」
いつの間にかベッドに押し倒されて、私の目の前には先輩の顔。
いつ見ても本当にきれいな顔だ。
こういう時の表情は普段のマイペースな彼とは違い男らしさを感じてしまう。
