「先輩!そろそろ起きないと、本当に遅刻ですよ!」
「………。」
「朝食…テーブルに置いてありますから…。」
「……ん。」
根気よく起こしたつもりだったがベッドから出てこない彼に伝言だけして玄関へ向かう。
履きなれたパンプスに足を通している間に、いつの間にかベッドから出てきたその人。
歯磨きをしている。
「ちゃんと会社来てくださいよ?」
「ん。」
「まだお偉いさんじゃないんですからね、社長出勤は無しですよ?」
「んー。」
「先に行って、待ってますからね…課長。」
「……。」
私がその呼び方をすると、なんとなく不機嫌になる。
プライベートと仕事を一緒にしたくないらしい。
プライベートの彼のぼさぼさの前髪からのぞく目はいつもと変わらず優しい。
不思議と安心してしまう。
「行ってきます…」
「…行ってらっさい。」
歯磨きでモゴモゴした口調だが、私をほんわかさせるには十分な言葉だった。
