「楓…!!」
少し遠くから、聞きなれた声。
その声は誰かは分かっているのに、うまく顔があげられない。
すぐに声の主が近くまで来る。
「…探した。」
肩で息をしている。
私の姿を必死で探してくれていたらしい。
顔は、見れない。
「ごっごめんなさっ…」
すっかり目に溜まっていた大きな粒が流れていく。
「どうしたの?」
「あ、いや……すいません…」
「楓?」
先輩は、大切な話のときは必ず私のことを“楓”と呼び捨てで呼ぶ。
私のことを、大切に思ってくれている証拠だ。
「少し顔色悪いね…あっち行こうか…。」
「はい……」
ベンチのあるコーナーに連れて行ってくれる。
ふらつかないように肩を持ってくれているのも私の胸を苦しめる。
優しさがチクチクと針のように胸を刺していく。
席に座って、先輩が近くの自販機で買ってきてくれた水を飲んだ。
人ごみに酔っていたのは徐々に回復してきている。
「気分は良くなった?」
「はい。…すいません、人ごみに酔っちゃったみたいで…。」
「うん。」
「迷子になるところでした…あはは…。」
力のない笑顔のまま、ようやく顔を見ることができた。
朝の不機嫌な顔はもう無く、ひどく心配しているような、そんな顔。
「泣いてたのは、人ごみに酔ったからじゃないでしょ?」
優しい問いにまた目頭が熱くなる。
やっと引っ込んだと思ったのに…
