「大人2枚」
「あ、私も払います。」
慣れたように私の分もチケットを購入する彼。
慌てて鞄から財布を出した。
「いいよ。お財布しまって。」
「でも…」
「いいから。行くよ。」
2枚分のチケットを受け取り、スタスタと先を歩く先輩。
心なしかいつもより早足な気がする。
あぁ、そうか。
いつもは私のペースに合わせてくれていたんだ。
今日は祝日のせいか水族館自体とても混んでいる。
特に人気のコーナーになると、人がたくさんいて歩きづらい。近くの人の足を間違って踏んでしまいそうだ。
「せっ…先輩っ!」
そうこうしている内に彼との間が大きく開いてしまった。
先にいる彼を呼び止めようと、少し大きな声を出してみたが距離はどんどんと開いていくだけだった。
私の声が届かないところへどんどんと進んでいく背中に急に不安を覚えた。
どうしよう。
いい大人にもなって、はぐれただなんて。
いや、そんなことより…
このまま先輩が私のこと許してくれなかったら。
別れようなんて言われたら……いやだな…。
お酒が入っていた席だとはいえ、恋人の前で他の男の人に抱き付くだなんて。
自分がされたらきっと、耐えられない。
すっかり人ごみに酔ってしまい、さらには先輩の姿が見当たらない。
そういえば、もともと人の多いところはお互い苦手だった。
一緒に歩いていたから乗り越えられていたものだったのかもしれない。
周りをキョロキョロと見渡して、人のあまりいなさそうな暗めのスペースに逃げ込んできた。
壁にもたれかかるようにして項垂れていく。
先輩、どう思っただろう。
私と藤崎が抱き合っている姿を、どんな風に見てたんだろう…。
本当に…先輩との関係が終わってしまうかもしれない……。
じんわりと、目頭が熱くなっていく。
