課長と私


「お腹、圧迫してないかな?具合は悪くない?」




「今日はすこぶる元気です」





ガッツポーズをつくる。






「よかった。本当にきれいだから、自信もってね楓ちゃん。」




「ありがとうございます。ヴァージンロード転ばないようにします!」





1回練習したものの、見事に裾につまづいてしまった。
本番でやらかさないように気をつけなきゃ。





「ふふ。楽しみにしてるね。じゃあ、またあとで!」






百合さんが笑顔で部屋から出ていく。

なんだかホッとした。






「ちょっと緊張します。」




「お父さんと歩くの?」




「さっき危なかったんですもん。」




「大丈夫だよ。その時は支えに行きます。」




「転ぶの前提で話さないでくださいよ。」




「大丈夫だって。…俺もそろそろ行くね。ゆっくりでいいから、ちゃんと歩いてきてよ?」




「…分かってます。」





2人で笑いあって、すぐに入り口へ案内される。
彼とはしばしの別れだ。


その代わり、お母さんとお父さんが私のことを待ってくれていた。






「楓……」




「お母さんまだ早いって、泣かないでよ。」





涙腺の弱い母はウエディングドレス姿を見ただけで目に涙がたまっている。






「ちゃんとベールかけてよ?」




「かけるわよ。かけるけどぉ…」




「母さん、しっかりしなさい。」




「だってお父さん、寂しいじゃない…」





お父さんはいつでも冷静なまま。

今日もいつも通りの表情でお母さんを落ち着かせている。