「なんか…すいません。」
「そうだねぇ。楓ちゃんがもうちょっと早く俺のプロポーズ受けてくれればねぇ」
「え!?そんなこと言ったって…」
先輩の正式なプロポーズは、病室でのやつ以外はノーカウントだ。
「何?」
「いえ、特になんでもないです。」
「ねぇ…ここ、右であってる?」
「あ、そうです!…それで3つ目の信号を左で。」
「結構住宅街なんだね。」
「そうですよ?何だと思ってたんですか?」
「畑とか…農作物とか…」
「無いわけじゃないですけど…うちはやってませんよ!」
ひどい。完全に田舎っぺだと思われている。
「だって、楓ちゃん家の冷蔵庫によく野菜入ってたじゃん。」
「あれはっ…おばあちゃんですよ!というか、人ん家の冷蔵庫の中身何で覚えてるんですか…」
「今日は何作ってくれるかなぁって。」
「なるほど。」
そんな、なんでもないような会話をしている内に辺りはすっかり知っている風景になった。
懐かしいな、よくこの道を自転車で走ったっけ…
「亮くん、そこの角を右に曲がったところにあるのが私の家です。」
「はーい。」
「道広いので、そのまま車停めて大丈夫です。」
「…楓ちゃん家っぽいね。」
車から降りて家を一眺めして一言。
「どういうことですか?」
「んー、温かそうな感じだねって意味。」
家でわかるものなのだろうか。
彼はあまり緊張した風ではないが、私が緊張してきた。
インターホンを1度鳴らすとすぐにお母さんが扉をあける。
「いらっしゃい!楓も久々ね!柳瀬さん入って入って~」
「あっもう、お母さん!そんなグイグイと…亮くん困ってるからっ!」
「ご馳走用意してあるから!楓も手伝って!」
