「楓ちゃん、これ?」
「……」
そう、それ。
たぶんあってます。
「…開けるよ?」
「……はぃ…」
開けてしまっただろうか…
包装紙の音がやんで少しだけ静かになった。
「楓。」
頭まで被った布団を静かにとる。
優しそうな彼の顔がすぐ近くにあった。
「俺に、くれるんでしょ?」
「そう…です。」
「ありがとう。嬉しい。」
愛おしそうに頭を撫でる。
そのまま額にキスが落ちた。
「全然、高くないし…サプライズ感もないし…」
「そ?結構嬉しいんだけどな……楓ちゃん、いつかもキーケースくれたよね。」
「はい…まだお付き合いしてない時、だったと思います…」
「あのさ…俺の友達に聞いた話なんだけど」
ベッドのマットレスに肘をついて私の顔を覗き込む。
か、かっこいい…
毎日見ていても飽きない。
「贈り物のキーケースには意味があるんだって」
「…意味、ですか?」
私の問いに頷く先輩。
「…いつも一緒に居たい、あなたと一緒に居たい…だって」
「えっ」
「知っててくれたのかと思ってた…女の子ってそういうの気にしそうだし。」
「全然知らなかったです…わ、私…付き合ってもない人にそんな…っ!重すぎる……」
「俺、それ聞いた時嬉しくて…だからずっと大切に使ってきたんだよ」
「あ、あの…それって……亮くんはあの時、私のこと…」
当時の私はすでに彼のことを気にしていた。
でも、私なんて数多くいる女性の内の1人だと思っていたから、プレゼントを渡しても印象には残っていないものだと勝手に思っていた。
目線が少し外れて、また目が合う。
「…好きだったよ」
今、地球に隕石が落ちてきても後悔しない。
心拍数がどんどん上がっていく。
ちょっとだけ恥ずかしそうに話す彼が可愛くて仕方ない。
じわじわ顔に熱がこもっていく。
「楓ちゃん、何考えてるの…?」
「いや…あの…嬉しくて……どうしよう…ずっと、片思いだと思ってたから…」
「…言ってなかったっけ?」
「言ってないですよ!…私、先輩がいつから私のこと好きでいてくれたか知らないですもん…」
不貞腐れている私を見ながら、彼がまたベッドの中に戻ってくる。
はだけた毛布を肩までかけ直してくれる。
「楓ちゃんが、サークルの見学に来た時」
「えっ」
「言ってなかったっけ?」
も、もう…この人は、本当に……
サークルの見学に来た時って、それってつまり…
「一目惚れってあるんだね」
昔話のように話す彼。
衝撃過ぎて思考回路がついていかない。
「……ばか」
「急に悪口…?」
「だって…ずるい……キャパオーバーです私…本当にずるいです…」
すがるように彼の胸元に体を寄せた。
「何か…ごめん?」
「……許す。」
戸惑うように抱き付く私に応える。
「楓ちゃん、俺…ちゃんと責任もつからね」
「亮くんが無責任だったことなんて、無いですよ…?」
「そう?…でも、今度は楓ちゃんと、子供の分…しっかりするね」
「…ふふ」
「そこ笑うところじゃないよ」
私よりなにより先輩の方が心配してくれているみたいでおかしかった。
そして、また可愛いと思ってしまった。
顔を上げると不意にキスをしてきた。
こんなに甘々でいいんだろうか、嬉しい気持ちが抑えられず、私からもキスをする。
「私、明日死んでもいいです…」
「え、ダメだよ…」
「…泣いちゃいますか?」
「…立ち直れないよ…」
「へへ…私も、亮くんが…居なくなったら嫌です…」
「楓ちゃん…?眠い?…無理させちゃったね…」
「ん…」
瞼が重くなっていく。
これまでいろいろあったけど、今日ほど嬉しかった日は無いかも知れない。
今まで過ごしてきた日々の中で1番幸せだ。
