食事を終え、先輩の後をついていく。
さっき乗ったエレベーターに乗ってさらに上の階を目指す。
彼の大きな左手を自分の右手で掴んだ。
すぐに長い指が絡んでくる。
なんとなく、言葉はいらないような気がして何も話さなかった。
すぐに目的地について少しだけ廊下を歩いて部屋に入っていく。
「はぁ~」
「あ、こら!シャツがくしゃくしゃになっちゃうじゃないですか!」
「じゃあ…楓ちゃんが脱がしてくれる?」
「いやです。どうしてすぐにそうなるんですか…」
部屋に入るなりベッドに寝転がる彼はいつもの彼に戻っていた。
さっきの雰囲気はどこへやら。
「レストランもすごかったけど…すごい夜景ですね…ほら!イルミネーションすごいですよ!」
「楓ちゃん夜景なんて興味あるの?」
「えっ、ありますよ!…たぶん」
「たぶん、ね。花より団子だもんね。」
ちゃかすようにこっちを見る彼は薄暗い部屋でなんとなく色っぽくてどきっとした。
ひとしきりイルミネーションを見た後、彼が横になっているすぐ隣に腰かけてみる。
「…楓ちゃん、どうしたの」
上体を起こした先輩がいつものように後ろから私を抱きしめる。
耳元がくすぐったい。
「私、亮くんと絶対結婚できないと思ってました。ついこの間まで。」
「…そう?俺は絶対楓ちゃんが良かったけど。」
「わっ…亮くんがそんな素直な…」
「いつも素直だよ」
「ふふ…これからはもうちょっと素直でお願いしますよ?」
「ん…」
「…だって、やっぱり釣り合わない気がしてたんですもん。……でも、亮くんが倒れたとき本当に死んじゃうかと思って。…怖かった。」
耳元に静かな吐息だけが聞こえる。
少しだけ抱きしめる力が強くなった。
今でもゾッとする。
声をかけても、触れても目を開いてくれない彼の姿。
もう二度とあんなことは嫌だ。
