先輩がリラックスさせてくれたおかげで楽しく食事が出来た。
記念日というだけでこんなにも豪華なところに連れてきてくれる。
それに比べたら私のプレゼントなんて本当に大したものじゃないな…
渡したら何でも嬉しいって言ってくれるけど。
「…楓。」
「は、はい。」
頭の隅でそんなことを思っていると急に名前を呼ばれる。
何か大切なことだろうか。
「病室で言ったこと覚えてる?」
「…はい。」
グラスを置いてまっすぐに先輩のことを見る。
和やかで落ち着いた雰囲気。
病室で言ったことって、プロポーズのこと…だよね。
「あのさ…今までありがとう」
「……え?」
幸せで広がっていた胸に冷たい何かが突き刺さったようだ。
今までって一体どういう意味なの?
「料理も、掃除も、洗濯もほとんどやってもらって、ずっと甘えててごめん。…でも、感謝はしてるから。楓のお母さんにも言ったけど、俺は楓に支えてもらってると思ってる。…楓がいないと生活がまわらないくらい。」
これが別れの言葉なら、手が込み過ぎている。
嫌な思い出ワースト1位だ。
体が石のように固まって動かない。
「ストーカーのときも、勝手に帰っちゃうし、言うこと聞かないときあるけど…きっとそういう思い通りにならないところも含めて好きで、俺に必要なんだと思う。」
流れが変わった気がする。
病室でのシーンが走馬灯のように思い浮かぶ。
グッと熱いものがこみ上げてきた。
「だから…ずっとそばにいてほしい。……俺の隣にいてほしい。これからも、俺が支えていきたいし、俺も支えてほしい。
……俺と結婚してください。」
小さい黒い箱から初めて見る指輪のプレゼントが見えた瞬間大粒の涙があふれた。
