課長と私


「じゃ、行こうか。」

「ちょっと待ってください!!わわわ私の心の準備が!!!」

「俺のこと…家族に話してないの?」

「え…えーっと……なんとなく、そういう人がいるとは言ってたんですけど…」

「結婚したい人?」

「そんな具体的には……付き合ってる人がいるって…言いました。」

「じゃあ、いいじゃん。」

「だって!今度は違うじゃないですかっ…挨拶って、その…」


今にもパーキングからドライブに持っていきそうな左手を両手で抑える。
先輩の表情は依然変わらぬまま。


「結婚の挨拶。…していいでしょ?…というか、しなきゃでしょ」

「……。」

「俺は、したいんだけど。」

「……はい。」


左手に添えた両手を静かにおろしていく。
改めて助手席に座りなおそうと思ったとき、今度は私の右手を強引に引っ張られた。

そのまま触れるだけの唇を戸惑いながら受ける。


「今日、楓ちゃん家じゃ出来なさそうだから……もっとしとく?」

「も、もぉいいです…心臓に悪いですよ……」

「そ?…じゃあ…」

「あっ…」

「…?」


ダメだ
こんなのちょっと前の私じゃしないのに…

もっと触れてほしいなんて。


「も…少しだけ」

「…いいよ。」