「まぁ長い間片思いしてたあいつなら、なんとか乗り越えられそうだけどね~」
「そ、そういうもんですかね…」
会社の休憩室まで戻ってきた。
デスクに置いておく用のコーヒーをタンブラーにいれて職場に戻る。
午後の仕事は何事もなく終わり、様子をチラチラ見ていたものの、先輩は入院する前と同じままだった。
「病み上がりでも完璧だなぁ…」
「本当だな。」
「うわっ」
「可愛げない驚き方だな…」
いつの間にか隣にいた藤崎に驚く。
「そう見える?」
「ひっ」
後ろから亮くんにも話しかけられる。
「お疲れ様です課長。…体調どうですか?」
「お疲れ様。全回復…とは言えないけど、まぁまぁかな」
「良かったです。課長が居なかったとき、須藤が仕事の進みが遅くて苦労しましたよ。イケメンがいないと頑張れないそうです。」
「藤崎…何言って…」
「そうなんだ。もう大丈夫でしょ、須藤サン」
わざとらしく苗字にさん付けしてくる彼。
「か…課長まで…」
眉をハの字にする私を見て優しく笑う。
「すごい心配してたみたいなので、何か奢ってやってください。…じゃあ、俺はお先に失礼します。」
「あぁ。お疲れ。」
藤崎の後姿を見送った後、私は課長室に呼び出された。
まだ会社に残っている他の人には見えないようにブラインドをおろす。
周りの人には気を使ってくれているようだ。
「はぁ…疲れた」
「か…課長、だめです誰かに見られたら…っ」
部屋に入るなり抱きしめてくる彼に冷汗が出てくる。
「見えないようにしました」
「だ、誰か入ってくるかも…」
「鍵も閉めました」
「……そう、ですか」
もう言い返せない。
「大丈夫ですか?」
「ん?」
「体調は…」
「ちょっとしんどいかも…」
「え、じゃあ病院に…!」
「だから今、回復中…」
ギュッと抱きしめる力が強くなる。
病室で抱きしめられたときと比べると肉付きが良くなった気がする。
「回復…しましたか?」
「ん…もうちょっと…」
「…あの、りょ…亮くん…言わないといけないことが…あって…」
さっきまで仲良く話してた藤崎のこと…なんですけど…
以前藤崎のことでひと悶着あった私にとってかなり言いづらい案件だ。
「何?」
「ええっとですね…それが……」
「今日…楓ちゃん家行こう。」
「……んえ?」
突然の申し出に変な声が出た。
急すぎる。
「ダメ?」
「な…何用ですか?」
「引っ越しの準備。…一気には持っていけないでしょ?」
「引っ越し…そう、ですね…」
「話もその時にしよう。」
「え、あっはい…」
引っ越しと言われると…
実感っていうものがわいてくるような…
初めての感覚に少しだけ戸惑う。
そして流されている気がする。
「ご飯は作ってね。」
「あ、もしかしてそれが目的ですか?」
「んー?どうかな。」
くそぉ…
なんだこの余裕の表情
憎めない…
そのあと無事に充電が終わった彼とうまくタイミングをずらし会社から出て、彼の車で久しぶりの自分の家へ急ぐのだった。
