課長と私


「楓ちゃん。」

「あ、先ぱ………亮くん?」

「ふっ…そんなに言いづらい?」


まだ慣れていないその呼び方。
何年もこのままだったのに急に呼べる訳がないんだ。


「今何してるの?」

「…どっかの誰かさんの家の掃除です。」

「え?あ…俺の家?」

「来てみたらひどくて…どうやって暮らしてたんですか?」

「大学の時はもっとひどかったよ。」


その発言になんとなく「だよなぁ」と思ってしまうのは内緒にする。


「もー…ご飯、作らなきゃダメじゃないですか。だから栄養失調なんて…」

「自分の作ったもの、あんまり美味しいと思わないから…」

「そうなんですか?」

「だから楓ちゃんの料理、本当に美味しくて好き。」

「すっ……」


好きという言葉にびっくりしてしまう。
免疫が無いからやめてほしい。

本当は嬉しい。


「じゃぁ…いっぱい作ってあげるんで、早く治して帰ってきてください…」

「うん。…そのつもり。」

「待ってます。」

「ん。じゃあね。」


用はこれだけだったんだろうか…
それでも嬉しい。声が聞けただけで充分だ。

幸せになった気分のまま、部屋の掃除を進めた。
先輩が帰ってきたら、本当に同棲となる。

不安もあるけど楽しみの方が大きい。
彼が帰ってくるまであと数日。