課長と私


「…元……かぁ…」

「………。」


ポロポロと涙が出てきた。
声も震える。


「そ…だよね。私…散々先輩のこと傷つけておいて…ね。」


言葉を発すると一緒に静かに涙が流れていった。
俯いているから藤崎の顔はうかがえない。


「こんな…泣くくらいなら……言わなければ…っ……。」


涙の粒がだんだんと大きくなって来た。
視界が歪む。


「もぉ…っ…嫌われちゃっ…」


まだシャワーを浴びて間もない藤崎の腕の中。
肌と肌が接した部分だけぽかぽかと温かい。


「……うるさい。」

「……っ…」

「…うるさい…早く寝ろ。それで、忘れろ…」


包み込んでいる腕に少しだけ力が入る。
彼の声が消え入りそうに聞こえる。


「……忘れ…っ…られ…ない……っ」


背中に手をまわして止まらない涙を藤崎のTシャツで拭った。
微かに体が震えていて、それを子供をあやすかのように優しく頭をなでる。


「今お前の前にいるのは、俺だろうが…他のやつのことなんか話してんじゃねえよ。」

「……ば…か…」

「うるさい。襲うぞ。」

「………。」


背中にふんわりとした感触があたる。
熱っぽい表情をした彼の顔が近くにあった。


「……そこで黙るなよ…」

「…ふ…藤崎……待っ…」

「充分待った」

「ちか…い…」


どちらかが動けば触れてしまいそうな距離。


「ダメか?」


ダメだと、強く拒まないと、早く、早く…
頭では理解しているのに、言葉に出てこない。


「もう、遅いからな…」


自分に言い聞かせるような声で、私の首元に顔を埋める。
彼の唇が触れていくところが熱い。


「…っ」


耳を甘噛みされたと同時に反応する体。
大きな左手が服の上から輪郭をなぞっていく。

このまま目の前の彼に抱かれていたら、先輩のことを忘れられるのだろうか
まだ拭えきれない涙でぼやける。

それに気づいた彼が困った表情で囁く。


「……泣くなよ」

「…ご……めん…藤崎……ごめ…っ…」

「………」


私に触れていた手を止めて離れていく。
狭いシングルのベッドに2人並んで寝ころんだ。


「あぁもう……」


何かを諦めたようにベッドに顔を埋める。
静かな部屋に響く低い声がどことなく先輩に似ていて、安心した。


「お前ずるいぞ…」

「……ごめん」

「今度は……絶対止めない」